【ブログ】板橋で絵本と出会う夏①――「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」へ

【ブログ】板橋で絵本と出会う夏①――「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」へ

こんにちは、絵本制作室の三島です。
先日、板橋区立美術館で開催されていた「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」を観に行ってきました。

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またこの季節がやってきた。
夏になると板橋区民になりたいとさえ思ってしまう。

毎年8月に板橋区立美術館で開催される、「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」とその関連イベントは、絵本好きにはワクワクが止まらない。

板橋区立美術館の入り口

 

ボローニャ国際絵本原画展は、イラストレーターの登竜門と呼ばれていて、今年で59回目の開催となる。今年は89の国と地域から4,374名の応募が寄せられ、日本人6名を含む77名(76組)が入選した。板橋区立美術館では、これらの全入選作品を観ることができる。なんとも贅沢だ。

シドニー・スミスによるポスター
(板橋区立美術館の横にある公園で描かれた)

 

待ちわびた、シドニー・スミスの特別展示へ

今回一番楽しみにしていたのは、2024年に国際アンデルセン賞・画家賞を受賞したシドニー・スミスの特別展示だ。

私が初めて彼の絵本に出会ったのは、うみべのまちで(ジョアン・シュウォーツ 文/シドニー・スミス 絵/いわじょう よしひと 訳/BL出版 刊)だ。

SNSでこの絵本を紹介している人がいて、その紹介されたシーンを見た瞬間、画面をスクロールする手がピタッと止まった。
―――なんて美しい光を描く人なんだろう。画面越しに伝わってくる光の眩しさに心をガツンと掴まれたのだった。

その後、『このまちのどこかに』『お花をあげる』を読んでいくうちに、その魅力にどっぷり浸かっていった。

『このまちのどこかに』
(シドニー・スミス 作/せな あいこ 訳/評論社 刊)
『おはなをあげる』
(ジョナルノ・ローソン 作/シドニー・スミス 絵/ポプラ社 刊)

 

シドニー・スミスの絵の魅力は、線と光だと私は思う。そしてもの悲しさ

子どもは元気ではつらつとしているのがよい。明るく朗らかなのがよい。そういった「大人の希望」のようなイメージが世の中には少なからずあると思う。でも、彼の描く子どもたちは違う。どこか孤独だったり、ためらっていたり、沈黙していたりする。それでもそれが肯定的に美しく表現されている。

実際、私は元気ではつらつとした子どもではなかったので、記憶の向こうにいる子ども時代の私も、彼の絵に共鳴しているのかもしれない。

今回の展示では、シドニー・スミスの原画をはじめ、スケッチや習作といった、「本にならなかった」部分にも触れられる。これはとても貴重な体験だ。自分の好きな絵本の好きなページが、画家の手によってどのように生まれていくのか、その過程を垣間見られるのは、この上ない歓びだ。

私は、彼の筆ペンの伸びやかな線とにじみのバランスがたまらなく好きで、しばらくの間、絵の前でただポワンと立ち尽くしていた。

私的、気になった画家たち

今回の「ボローニャ国際絵本原画展」に入選している作家で心惹かれた3人を紹介したい。

➀アマンダ・ミハンゴス(Amanda Mijangos)

彼女は、私が昨年のボローニャ展で最も心惹かれた画家だ。「ブルー」をものすごく多彩に、そして美しく表現する画家だと思った。以下は、昨年入選した"El primer barco(最初の舟)"という作品である。

"El primer barco"
(José Saramago 作/Amanda Mijangos 絵/Lumen 刊)

 

海の青い色の表現がすばらしくて、思わず息を飲む美しさである。生命の息吹を感じる深い海、荒々しく打ち寄せる波。そして、穏やかな昼の海。さまざまな海の表情が人の感情と響き合っている。そんな風に感じた。

昨年、私の心をときめかせた彼女の新しい作品が今年も入選していると知り、さらに胸が高鳴った。

今回入選した作品は"Lá fora, os fantasmas(おばけがそこに)"という作品である。この作品は、誰もが一度は抱いたことのある恐怖がテーマになっているとのこと。暗闇への恐怖、お母さんがいないことの恐怖だ。

インクのにじみと深い闇の青色、そしてコラージュによって、子どもの行動と感情のバランスが絶妙に表現されている。

原書は入手できなかったが、いずれ手にして深く読みたいと思う。

なお、"Lá fora, os fantasmas"は「The BRAW Amazing Bookshelf」(ボローニャ・ラガッツィ賞の応募作品から選ばれた優れた150冊)に選出されている。

②アンナ・フォン(Anna Font)

展覧会会場の壁に沿って視線を移していくと、思わず目を奪われる作品があった。『¿Cuánta gente se necesita...?』という作品だ。

紙面いっぱいに、カラフルで楽しげな人や物が描かれている。

紙面の左側には、何人もの人が次々に肩車で積み上がり、まるで人間タワーのようになって電球を替えようとしているユーモラスな場面。右側には、その努力の結果であろう、明かりが灯った電灯のイラストが描かれている。そして「何人必要かな?」というキャプションを見たとき、「これ、絶対楽しい絵本だ!」と確信した。

会場に置かれていた絵本の本体を開いてみると、絵本を囲み、みんなで楽しめるQ&A形式の絵本だということがわかった。質問に対してその答えは、フォント違いでさかさまに配置されているという遊び心もある。言葉がわからないのが、なんとも悔しい……。

家に帰ってあらすじが紹介されているWebサイトなどを調べてみると、ユーモアあふれる"問い"と"答え"で構成された、なぞなぞのような絵本であり、また誰かと一緒に対話しながら読み進めたくなるような絵本だということがわかった。

③マルク・マジュスキ(Marc Majewski)

この画家のことも、昨年のボローニャ展で知った。昨年入選したのは"Butterfly Child"という作品である。

この作品が印象に残ったのは、テキストがなくても絵だけで十分に語られていて、こういう絵本を子どもに届けたいなと思ったからだ。会場内にある絵本を自由に読めるスペースで、日本語訳されたこの絵本をみたとき何とも言えないうれしい気分になった。

『チョウになりたい』
(マルク・マジュスキ 作/吉井 知代子 訳/金の星社 刊)

出版社のWebサイトに記載されているあらすじを引用させていただく。

チョウになっている自分が好き。それをからかう子たちもいて、嫌になることもあるけど、パパが応援してくれているから、またチョウになって飛ぶよ。“好き”の力、それを理解し支えてくれる存在の力を教えてくれる一冊。(「金の星社」HPより)

チョウになって羽ばたき、輝いている男の子を見て、子どもたちに、こんなふうに「大好き」を思いっきり楽しんでほしい。そんな風に思った。

彼の今回の入選作品は"Parks(公園)"という作品である。世界じゅうのさまざま公園の様子が、見開きいっぱいに生き生きと美しく描かれている。

"Parks"
(Marc Majewski 作/Abrams Books for Young Readers 刊)

 

公園で過ごす人たちが本当に楽しそうに描かれている。人と人、人と自然、そして社会をつなぐ存在なんだと感じられる絵本だ。

大田区にある「西六郷公園(タイヤ公園)」が描かれたページもある。私は今まで知らなかった。こんなタイヤだらけの公園が東京にあったとは! どのように描かれているか知りたい人は、ぜひ絵本を開いてみてほしい。

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今年のボローニャ展も、熱い空気に包まれていた。
来年はどんな作品に出会えるだろう。そう思うと、また夏が待ち遠しくなる。

巡回情報

板橋での展示は終了しているが、以下の会場では開催中(開催予定)である。お近くの方は、ぜひ会場でイラストレーターたちの熱を直接感じてみていただきたい。