3月27日(日)に、吉祥寺にある素敵な絵本専門店あぷりこっとつりーさんで、イランの絵本『ボクサー』読書会を開催しました。『ボクサー』の翻訳を担当してくださった翻訳者の愛甲恵子さんをお招きし、イランのノウルーズについてのお話を聞きながら、絵本『ボクサー』を深く読んでみようというイベントでした。
イベントの開催を思い立ったのが、2月の中旬ごろ。ほぼ初めての主催イベントだというのに、準備期間の短さ……。SNSなどで告知を始めたのも、イベント当日の2週間前ぐらいになってしまいました。はたして皆さん集まってくれるのだろうか……不安もあったのですが、11人の方々にご参加いただきました!
ノウルーズのお話から
まずは、愛甲さんによるイランの新年ノウルーズについてのお話から始まりました。イランでは、春分の日から新年が始まります。それも、午前0時に新たな年になるのではなく、太陽が春分点を通過した時点で年が改まるので、毎年毎年、新年を迎える瞬間が異なるそうです。おもしろいですよね。今年は、東京では3月21日 0時33分26秒、テヘランだと3月20日 19時03分26秒が、新年を迎える瞬間だということです。
日本だと、除夜の鐘を聞きながら、午前0時を過ぎたら「あけましておめでとう」なので、毎年新年を迎える時間が異なるというのは不思議な感じがしました。でも、「太陽が春分点を通過した時点で新しい年になる」と決まっているので、世界中どこにいても新年を迎える瞬間は同じなんですね。それは、すごく素敵だなと思いました。
そして今回、私たちが準備した新年のお供えものがこちら。じゃーん、ハフト・スィーンです!
ハフトはペルシャ語で「7」、スィーンは英字でいうと「S」にあたります。スィーンから始まる7つの縁起物を飾ります。写真を見ていただくと、リンゴ(Sib)、にんにく(Sir)、酢(Serke)、ヒヤシンス(Sombol)など、Sから始まる品々が並んでいますね。緑の器に入っているのはスプラウトですが、青草(Sabseh)のつもりです。生命の象徴なのだとか。
これらと一緒に、ハーフェズというイランで最も愛される詩人の詩集、ハーフェズ詩集を飾ることもあるようです。愛甲さんが持ってきてくださったハーフェズ詩集は、装丁が美しく、また紙面もレイアウトデザインがすごく素敵で、書物というより芸術品のように見えました。
朗読後、『ボクサー』について深く読む
ノウルーズの気分を少し味わったあとは、弊社のスタッフが絵本『ボクサー』を朗読しました。そして絵本の制作過程の話なども交えながら、絵本について深く読んでいきました。
今回、このイベントに、絵本作家でイラストレーターの小池アミイゴさんがご参加くださいました。すごくうれしかったです!
絵本の刊行後、小池さんは私たち絵本制作室に宛てて「すごく、よかった!」という旨の熱い感想を送ってくださっていたのです。刊行したばかりの私たちにとっては、本当にうれしく、これからこの絵本を届けていこうとする活動に向けてすごく力になりました。
イベントでは、小池さんはこんな感想をシェアしてくださいました。
「小学6年生の前で読んでみたら、すごく食いついてきた。静かに聞く必要ないよ、思ったことを声に出していいよと言ったら、これはなんだ、あれはなんだとさまざまな声が飛び交い、空気が高揚してきた。子どもたちと良いものがたりを共有できた。」
※小池さんの近著には絵本『はるのひ』(徳間書店)や『台湾客家スケッチブック』(KADOKAWA)などがあります。この記事の最後に『はるのひ』のご紹介をしています。
小学6年生の血気盛んな子どもたちがぐっと興味をもって読んでくれたと知り、胸がじーんと熱くなりました。
その後、愛甲さんから絵本のポイントとなる場面や見どころを話していただきました。翻訳でご苦労されたことや、翻訳をしていく中で気づかれたことなど、普段は翻訳者から直接聞くことのできないような貴重なお話をたくさんしてくださいました。
そして、参加者の方からも、思っていることや疑問なところを率直に話してもらいました。この絵本『ボクサー』は、何か1つの明確な答えを出してくれるようなお話ではなく、これは何?どういうこと?と感じられる箇所があるかと思います。表紙の頭の小さなボクサーの描写もそのひとつだと思います。この人の頭はなぜこんなに小さいのでしょう。このようないくつもの「なんでだろう?」や「どうして作者はこう書いたのだろう?」を、皆で探っていく濃密な時間となりました。
いろんな言葉で、いろんな声で読んでみたい
ひとしきり語り合ったあとで、愛甲さんにペルシャ語で『ボクサー』を朗読してもらいました。冒頭の部分は、日本語では「ボクサーは、打って、打って、打った」となりますが、ペルシャ語では「モシュ・ザン、モシュ・ミザドォ、モシュ・ミザドォ、モシュ・ミザ」という響きになります。ペルシャ語と日本語の響きの違いも興味深かったです。
今回、日本語版を弊社スタッフが、ペルシャ語版を愛甲さんが朗読しました。どちらも女性です。わりと落ち着きのある声質の2人でしたが、それを男性が読んだらどうか、子どもが読んだら? 耳で聞き、心で感じる楽しみ方もできるなと思いました。
まとめ
さまざまなお話をしてくださった愛甲さんをはじめ、参加者の皆さまが盛り上げてくださったおかげで、1冊の絵本を囲んで濃密な時間を共有できました。ありがとうございました!
最後に『はるのひ』のご紹介
最後に、イベントに参加してくださった小池アミイゴさんの絵本『はるのひ』を少しご紹介させてください。
『はるのひ』(小池アミイゴ 作・絵/徳間書店 刊)
ある春の日。ことくんはとーちゃんを手伝うために畑にやってきました。畑の先の森の向こうにはゆらゆらと上り立つけむりが見えます。それを確かめにいくために、ことくんは小さな冒険に出ます。「とーちゃん、おーい」と呼ぶ声に必ずこたえてくれる、とーちゃんの存在を感じながら…。
美しい春の風景のなか、ことくんは森の中へ走っていきます。ページをめくるごとに、ことくんのワクワクドキドキする気持ち、疾走感が伝わってきます。
「父と息子の話」というテーマは、『ボクサー』も同じ。
私は『はるのひ』を読んで、幼い頃、父が寝る前によくおはなしをしてくれたことを思い出しました。小さかった私は、何度も何度も同じ話をせがんだようです。1日の終わりに、父から聞く同じ話に安堵の気持ちを抱いていたのかもしれません。
美しい春の風景。新しい冒険に踏み出す人も多いであろう今の季節にぴったりの一冊です。
(おわり)